「着いたわ、ここよ。」
彼女は素早くタクシー運転手に支払いを済ませると、私の手を引き建物へ連れて行こうとするのでした。
“逃げ出すチャンスは今しかない”と「危険予知のレベル」は既にMAXに達している私。
“タクシーを降りた瞬間に彼女の手を振りほどき逃げ切れればどうにかなるだろう”
私の脱出作戦のシナリオは出来上がったのでした。
しかし、この作戦は実行に移すことなく彼女と建物に入ることのなってしまったのでした。
開いたタクシーの扉は、ガードマンによって支えられ私たちを出迎えている。しかも彼の腰元には拳銃らしきブツがぶら下がっていたのです。
しかし、彼女は何故私をここに連れて来たのだろう・・・フロントロビーはあるものの、ホテルではなくマンションといった感じ。
クアラルンプール市内にはあまり土地勘はないが、おそらくツインタワーからはそう離れていない。
彼女が滞在しているペタリンジャヤとは全く違う場所ことくらいは私でも理解できる。
次なる脱出方法を模索しながらも何となく真相を突き止めたいという好奇心に駆られる私でしたが、ガードマンに見守られながらエレベータへ。
20数階あっただろうか、彼女は高層ビル並みに急上昇するエレベータの7階のボタンを押した。
7階ではベランダから飛び降りて逃げるわけにもいかない、私は最後の脱出手段として非常階段を選択せざるを得なかったのでした。
が、7階で降りた私達。
目的の部屋はエレベータの真正面、廊下でも歩ければ“非常口”マークやフロア配置などを頭に入れることもできたのでしょうが、その道も閉ざされたのでした。
緊張する私とは裏腹に部屋のカードキーを使い上機嫌で扉を開ける彼女。
“万事休す。。。。”
“怖いお兄さん”は何人で私を待っているのだろう・・・・彼女に誘われ部屋へ入った私。
どうやらここはサービスアパートのような施設のようだった。
恐る恐る目で部屋を見渡すも、生活感は感じられるが怖いお兄さんが出てくる気配はない。
「どうしたの?こっちよ」
彼女は、玄関先で立ち止まっている私の手を引きベッドルームへ。
そこには、ポツンと旅行カバンと小ぶりなバッグがソファーに転がっていたのでした。
ここにも“怖いお兄さん”の存在は確認できない・・・徐々に安堵感に包まれ始める私。
すると彼女は更に私の手を引き窓際へ誘うのでした。
“もしやカーテンの陰に隠れているのでは?”と思った瞬間、彼女はカーテンをめくって見せたのでした。
「ここからツインタワーがよく見えるのよ、きれいでしょ?」
ビルに挟まれて視界が狭く絶景とはいかないものの、ツインタワーがクッキリと見えたのでした。
この光景を見て、私がツインタワーとKLタワーの間のどこか、しかも私の宿のあるブキビンタンとはそう離れていない場所に居ることに気づいたのでした。
ようやく“怖いお兄さん”は妄想だったことを確信した私、心中を占めていた不安ごとは一挙に消えてなくなったのでした。
こうなってくると、かねてからの「疑問」が気になって仕方ない。
窓の外に見えるツインタワーを背にキスをせがむようにまとわりついてくる彼女に私は、
「君のホテルはペタリンジャヤのベストウエスタンなのに、この部屋は一体何なの?」
と聞いてみたのでした。
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